大判例

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秋田地方裁判所 昭和61年(行ウ)6号 判決 1991年3月22日

原告

清野昭一

小松徳一郎

小松シゲミ

田口仁一

田口ミヨ

田口精一

田口美智子

佐藤友男

佐藤暢子

村田勝二

菅原繁

花塚昭

村上彬

斉藤喜明

高野健吉

涌井徹

藤井正雄

三浦勝

外<省略>

右原告ら訴訟代理人弁護士

岡村勲

朝田啓祐

川﨑達夫

長﨑俊樹

後藤仁哉

右岡村勲訴訟復代理人弁護士

椙村寛道

髙野一郎

竹澤一郎

第一事件被告

宮田正馗

第二事件被告

佐々木喜久治

被告訴訟代理人弁護士

加藤堯

外<省略>

主文

一  第一事件原告ら及び第二事件原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は第一事件原告ら及び第二事件原告らの負担とする。

事実

〔甲 第一事件について〕

第一  当事者の申立

一  請求の趣旨

1  被告は秋田県大潟村に対し、金二億七六七六万一〇〇〇円及びこれに対する昭和六一年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告らは、いずれも秋田県大潟村の住民である。

(二) 被告は、昭和五三年九月から大潟村村長の職にある者である。

2  秋田県知事による違法な減反政策の強制

(一) 秋田県知事が減反政策を強制するに至った経緯

(1) 大潟村では、国営八郎潟干拓事業によって造成された八郎潟中央干拓地(以下「中央干拓地」という。)において農業を営むため、昭和四二年から同四五年まで第一次から第四次までの入植者四六〇名が入植した。第四次までの入植者に対しては、中央干拓地においておよそ一〇ヘクタールの農地が配分されたが、農林大臣と入植者との間の配分契約には、「八郎潟新農村建設事業団法(以下「事業団法」という)二〇条一項の基本計画に示された方針に従って営農を行う」及び右に「違反したと農林大臣が認めるときは、入植者の土地所有権取得後一〇年間に限り該当土地を負担金相当額をもって買収することができる。」旨定められており、事業団法二〇条一項を受けた基本計画(昭和四〇年九月一五日農林省指令四〇農地A第一八〇三号、自治指第三四六号、以下、これを「基本計画」という)が「中央干拓地における営農形態については、当面は水稲単作とする」旨定められた。

(2) ところが、昭和四五年に急激に米の生産過剰状態が生じたため、国はいわゆる減反政策を開始し、大潟村においても、農林省は、中央干拓地の残地の配分について、第一次ないし第四次の入植者に対し、五ヘクタールの農地を追加配分し、経営規模を一五ヘクタールに拡大するとともに、新たに入植する第五次の入植者一二〇名に対しても、一五ヘクタールの農地を配分するが、入植者全体が一五ヘクタールについて稲作畑作ほぼ半々ずつ(7.5ヘクタール)とする複合営農の方針を打ち出した。そして、農林省は、昭和四八年九月八日付けで、基本計画を、従来の「水稲単作」から「当分の間、概ね稲作と畑作は同程度とする」旨の基本通達(農林省指令四八構改A第一二六三号、自治指第一八三号)を出して変更した(以下、変更後の基本計画を「変更基本計画」という)。

変更基本計画に基づく営農は昭和五〇年から始まり、農林省は、その後、昭和五一年一月二四日付農林省構造改善局長通達(五一構改A八三号)をもって、入植者一人当りの稲作許容面積の上限を8.6ヘクタールと定めるに至った。そして、農林省は、8.6ヘクタールを超える作付、いわゆる過剰作付を前記配分契約に違反するとして、買取請求権の行使の可能性を背景に、一五ヘクタールの農地の配分を受けた第一次ないし第五次入植者の稲作を昭和五九年に至るまで制限した。

(3) ところで、第一次ないし第四次入植者の中には、五ヘクタールの追加配分を受けると水稲面積は一〇ヘクタールから2.5ヘクタール減少させられて収入も減少するうえ、毎年支払うべき配分を受けた農地の償還金は一五ヘクタール分支払わなければならなくなることに不安を感じて、追加配分を拒否する者もいたが、これに対して、農林省の担当者は、米の過剰は一時的なものであり、配分後二、三年は償還期間の支払時期は到来しないから、この期間だけ半分畑作をやってもらえばよい等と説明し、入植者を納得させて、追加配分を受けさせた。農林省の担当者は第五次の入植者に対しても、同様の説明をして入植させた。

変更基本計画による営農が昭和五〇年から始まったが、毎年、いわゆる青刈騒動が起こり、特に昭和五三年には、入植者らは、昭和四九年の追加配分及び第五次入植者の配分土地の償還金支払が始まるため、経済上の必要性があり、変更基本計画の「当分の間」の期間は経過したものと考え、大潟村村議会全員協議会の決定に従って、全入植者が12.5ヘクタールの水稲作付をしたところ、農林省及び秋田県からの圧力があり、入植者全員は青刈を余儀なくされた。

中央干拓地はヘドロ土質で、畑作に向かないことは農林省も認めており、8.6ヘクタールの稲作、6.4ヘクタールの畑作では赤字経営とならざるを得なかった。入植者は、国が変更基本計画の通達を根拠に6.4ヘクタールについては田でないとして、全国の一般農家が受けている転作奨励金等の補助金の支給を受けられず、農地の償還金支払が開始して新たな経済的圧迫が加わったため、その生活を守るため、いわゆる過剰作付をせざるを得なかった。

これに対し、農林省は、昭和五七年と同五八年、見せしめとして、いわゆる過剰作付をした入植者二名(内一名はわずか0.07ヘクタールの過剰にすぎない)に対し、買収手続を取った

そこで、原告らを中心に組織する大潟村農事調停会(以下、「農事調停会」という)は、昭和五八年六月、国を相手に、一五ヘクタールの水稲耕作権の確認を求めて秋田地方裁判所に農事調停の申立てをし、入植者らの正当性を主張したうえ、現実的な解決策を模索したが、結局、妥協点は見出せずに、昭和五九年秋に、同調停は不調に終わった。

しかしながら、変更基本計画にいう「当分の間」とは、償還金支払時期までということで合意されていたものであり、そもそも事業団法二〇条に基づく基本計画の変更は、同条二項により物的施設などのいわゆるハード面に限定され、何を作付するかのいわゆるソフト面については同法の予定しないものであるから、変更基本計画に「稲と畑作物をほぼ同程度とする」という営農のソフト面を規定することは、その有効性に問題がある。しかも、昭和五二年六月一〇日には、事業団法が廃止されたので、これに伴って基本計画も当然消滅したものである。

(4) ところが、突然、佐々木喜久治秋田県知事(以下、単に「知事」ともいう)は、昭和六〇年一月、農林省と入植者との間に入り、①昭和五八年、五九年産のいわゆる過剰米を全面的に是正する、②今後再び過剰作付が発生しないように村全体でルールを守る、という二つの条件が守られることを前提に、稲作面積の上限を従来の8.6ヘクタールから一〇ヘクタールに拡大する案(以下、これを「知事案」という)を提示した。

農事調停会会員を中心とする入植者多数が知事案に反対していたが、被告は、知事案を受け入れ、昭和五八年、五九年の過剰米を是正する方法として、同年産の過剰米とされる約二万四〇〇〇俵について、昭和六〇年産の過剰米に該当しない米約二万四〇〇〇俵を、加工原材料用米として大潟村の第一次集荷業者である株式会社大潟村カントリーエレベーター公社(以下「カントリーエレベーター」という。)に売渡委託させ、その際生ずる超過米価格(一俵当り約一万七〇〇〇円)と加工原材料用米価格(一俵当り約五八〇〇円)との差額約二億七〇〇〇万円を村費で補填し、大潟村全体として昭和五八年、五九年産について計数上過剰米がなかったことにする方式を採用した。具体的には、①過剰米に該当しない昭和六〇年産米を加工原材料用米価格で互助方式協力者がカントリーエレベーターに売渡委託する。②カントリーエレベーターは、右米を加工原材料用米価格で大潟村の第二次集荷業者である秋田県経済農業協同組合連合会(以下、「秋田県経済連」という)に売渡委託する。③大潟村は、村費をもって、カントリーエレベーターに対し、超過米と加工原材料用米価格との差額を補助金名義で交付する。④カントリーエレベーターは右①の売渡委託者らに対し、右③と同額の差額を補助金名義で交付する、というものである(以下、これを「互助方式」という)。

そこで、知事は農林省に対し、稲作を一〇ヘクタールに拡大する案を要請し、同省もこれを受け入れて、昭和六〇年三月三〇日、知事宛に大潟村の稲作を一〇ヘクタールに拡大する旨の通達を出した。

(5) ところが、昭和六〇年産米についても一〇ヘクタールを超えて作付収穫した入植者が一七〇名程いることが判明したことから、知事は、これに激怒し、その報復措置として、昭和六〇年一〇月七日、大潟村に通じる道路五ケ所に不正規流通米臨時検問所を設置し、更に同月一四日には検問所を二ケ所追加設置して、同年一二月二五日まで秋田県警察本部(以下「秋田県警」という。)及び秋田食糧事務所の協力を得て、二四時間体制で同村に出入りする車両の検問、同村内のパトロールを実施するに至った(以下、右検問を「本件検問」という)。

また、知事は、農林省構造改善局長、同省農蚕園芸局長及び食糧庁長官の三者の同意を得て、昭和六〇年一〇月二六日、カントリーエレベーター及び秋田県経済連に対し、それぞれ昭和六〇年産の過剰米について、従来とられていたような予約限度超過米(一俵当たり約一万七〇〇〇円)扱いせずに、加工原材料用米(一俵当たり約五八〇〇円)として扱うように指導し、カントリーエレベーターによって現実に過剰米について加工原材料用米以外での売渡委託が拒否されたことから、過剰米について一俵当たり約五八〇〇円の価格強制をするに至った(以下、これを「過剰米の価格強制」という)。

(二) 秋田県知事による減反政策強制の違法性

(1) 知事は、大潟村の過剰米はすべて自由米(知事のいう不正規流通米とほぼ同義)として流通するとの認識に立ち、過剰米を自由米として流通させることが食糧管理法(以下「食管法」という)の臨検検査及び罰則の対象となるとして、これら規定を利用して、本件検問によって米が大潟村から自由米として搬出されることを実力で阻止する一方、過剰米の価格強制によってその価格を生産原価を切る不当な安価でしか売渡委託させないように強制したものであって、これら知事の一連の行為は、力によって自らが主導した稲作面積一〇ヘクタール案を強制し、入植者が本来有する一五ヘクタールの水稲耕作権を侵害するものであり、一〇ヘクタールを超えて作付収穫した過剰米を流通の面から規制して作付を制限するもので、これは減反政策の強制にほかならない。

(2) このような知事の減反政策の強制は、水田に畑作を強制して水稲作付の自由を侵害するもので、憲法二二条一項に違反し、また、生産原価を大幅に切った価格でしか売渡委託を許さないことによって、不当に財産権を侵害するから、同法二九条に違反する。更に、右減反政策の強制は、全国的に減反割合を超えた作付によって収穫された米が予約限度超過米(以下「超過米」という)として一俵当たり約一万七〇〇〇円の価格で売渡委託されているにもかかわらず、大潟村のみに超過米としての取扱を諮めすに差別するものであるから、憲法一四条に違反する。

(3) 主要食糧の管理に関しては、食管法三〇条において、政府(国)は地方公共団体の長に委任することができる旨規定されているが、集荷面の事務については、いまだ政令は制定されていないのであるから、知事は米の集荷業者に対し、過剰米を加工原材料用米価でなければ集荷しないよう指示する権限を有せず、したがって、知事による過剰米の価格強制は食管法三〇条に違反し、違法である。

(4) 本件検問の違法性については、第二事件の請求原因3項を引用する。

3  互助方式に基づく本件補助金支出の違法性

(一) 被告はカントリーエレベーターに対し、互助方式に基づく補助金(以下、「本件補助金」という)として、合計二億七二二六万一〇〇〇円を支出した。

(二) 互助方式は、前記の知事による違法な減反政策の前提としてなされ、その一翼を担ったものであるから、互助方式に基づく本件補助金の支出も、知事による違憲、違法な減反政策の強制と同様に、違憲、違法な公金支出となる。

(三) 地方財政法四条の四違反

被告は、昭和六〇年三月、議会の補正予算で、歳入予算として財政調整繰入金二億五二八〇万一〇〇〇円、農政対策費寄付金一九四六万円をそれぞれ計上し、それに見合う歳出予算として農政対策費補助金二億七二二六万一〇〇〇円を計上して、本件補助金を予算化した。そのうち歳入予算にいう財政調整繰入金は地方財政法(以下「地財法」という)上の積立金の取り崩しであり、積立金の取り崩しについては、地財法四条の四により、その事由が限定されているが、互助方式による本件補助金の支出は、同条の事由のいずれにも該当しないものであって、同条に違反する。

被告は、本件補助金の支出が地財法四条の四第三号後段の「その他必要やむを得ない理由により生じた経費」に該当する旨主張するが、地財法四条の四の規定が制限列挙の規定であることに照らすと、地財法四条の四第三号後段の右事由は、同号前段の「緊急に実施することが必要となった大規模な土木その他建設事業の経費」に匹敵する事由でなければならないが、本件補助金の支出はこれに該当しない。

(四) 地方財政法四条の五違反

本件補助金の歳入予算のうちの農政対策費寄付金は、互助方式に対する村民の寄付金であるが、地財法四条の五は、地方公共団体の住民に対する寄付金等の割当強制徴収行為を直接間接を問わず禁止している。右農政対策費寄付金については、互助方式の運動母体であった大潟村農政対策推進会議(座長は被告)が村民一人当たり五万円と割当て、同会議のメンバーが昼夜を問わず執拗に村民を訪問して半ば強制的に寄付させ、同会議から村に寄付したものであるが、実質的には、村民に対する直接的な寄付金割当強制徴収行為であって、同条に違反する。

(五) 地方自治法二三二条の二違反

地方自治法(以下「地治法」という)二三二条の二は、公益上の必要性があるときでなければ、地方公共団体は補助金を交付してはならない旨定めているが、公益上の必要性は地方公共団体の公金(補助金)支出によって、住民全体の福祉と利益が図られるものでなくてはならない。しかるに、①入植者は本来的に一五ヘクタールの水稲耕作権を有しているのであって、一〇ヘクタールの水稲耕作権で妥協する互助方式は、五ヘクタールの水稲耕作権を放棄させるもので入植者全体の利益を害するものであること、②互助方式に対しては、大潟村における問題の根本的解決にはならないとして反対する入植者が多数存在すること、③互助方式は、前記(四)のとおり、一部入植者に寄付金を強制し、一部の者の負担により他の者の利益を図ったような形式であるところから、入植者の分断、対立が必至であり、村民間で軋轢を生ずる結果となる。したがって、互助方式に基づく本件補助金の支出は、到底村民全体の福祉を図るものとはいえず、同条に違反する。

(六) 地方財政法二条一項違反

地財法二条一項は、地方公共団体は「国の政策に反する施策」をしてはならない旨定めており、国の政策に反する行政目的のための公金の支出を禁じているが、互助方式はいわば個々の農民の個別的協力ではなくして、村全体をみて過剰米が是正されておればよいというものであって、個々の農民の協力を必要とする国の減反政策に反するものであり、このような結果を生ずることになる互助方式に基づく本件補助金の支出は、同条に違反する。

4  本件検問のための村費支出の違法性

(一) 被告は、本件検問のため総額四五〇万円を村費として支出した。

(二) 被告は、知事及び秋田食糧事務所が主体となって行った本件検問に加担し、実質上検問主体として行動した。本件検問は食管法一三条の臨検検査として行われたものであるが、第二事件請求原因3項(一)記載のとおり、臨検検査の主体は政府(国)に限られており、被告には知事と同様臨検検査を行う権限はなく、被告は臨検検査の主体となりえないから、本件検問のための村費支出は食管法一三条に違反し、違法である。

また、少なくとも、被告は、知事の行った違法な本件検問(前記2項(二)(4)記載のとおり)に加担協力したものであるから、本件検問のための村費支出も違法となる。

5  責任原因と損害

被告は、違法であることを認識し若しくは認識し得たにもかかわらず、故意若しくは重大な過失に基づいて、本件補助金及び本件検問のための費用の支出を決定した。その結果、大潟村は本件補助金及び本件検問のため右費用と同額の損害を被った。

6  監査請求の前置

原告らは、昭和六一年二月三日、大潟村監査委員に対し、本件補助金及び本件検問費用の支出について、地治法二四二条に基づき監査請求を行ったところ、同監査委員は、同年四月三日付で原告らに対し、「監査結果につき合議が整わなかった」旨の監査結果を通知した。

7  よって、原告らは被告に対し、地治法二四二条の二第一項四号に基づき、大潟村の被告に対する前記違法な公金支出による損害賠償請求権を代位行使し、大潟村が被った損害金二億七六七六万一〇〇〇円及びこれに対する昭和六一年四月一日から支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を大潟村に支払うよう求める。

二  請求原因に対する認否と反論

1  請求原因1項(当事者)の事実は認める。

2(一)  同2項(秋田県知事による違法な減反政策の強制)(一)(1)の事実は認める。同(2)の事実中、農林省が変更基本計画によって従来の基本計画を変更し、更に、変更基本計画を受けて、入植者一人当りの稲作許容面積の上限を8.6ヘクタールと定める通達を出したことは認め、その余は否認する。同(3)の事実中、原告らを中心とする農事調停会が原告ら主張の調停を申し立て、同調停が昭和五九年秋不調に終ったことは認め、その余は否認する。同(4)の事実中、知事が知事案を提示したこと、大潟村において互助方式を採用したこと、知事が農林省に稲作を一〇ヘクタールに拡大する案を要請し、同省もこれを受け入れて昭和六〇年三月三〇日に大潟村の稲作を一〇ヘクタールに拡大する通達を出したことは認め、その余は否認する。

(二)  同項(二)(1)ないし(5)の事実はいずれも否認し、その主張は争う。

3  同3項(互助方式に基づく本件補助金支出の違法性)(一)ないし(六)の事実中、被告がカントリーエレベーターに対し本件補助金(但し、その金額は二億七二九九万九七六九円である)を交付したこと、大潟村が昭和六三年三月議会の補正予算で、歳入予算として財政調整繰入金二億五二八〇万一〇〇〇円、農政対策費寄付金一九四六万円をそれぞれ計上し、歳出予算として農政対策費補助金二億七二二六万一〇〇〇円を計上して予算化したことは認め、その余は否認し、その主張は争う。

4  同4項の事実はいずれも否認し、その主張は争う。

5  同5項の事実は否認する。

6  同6項の事実は認める。

7  互助方式に基づく本件補助金の支出について

(一) 互助方式に基づく本件補助金の支出は、大潟村農民の悲願ともいうべき農家一戸当りの稲作許容面積の上限を従前の8.6ヘクタールから一〇ヘクタールに拡大することを実現するためのものであり、被告は大潟村村議会の議決を経たうえ、本件補助金を支出したものであって、本件補助金の支出は何ら違法ではない。

(1) 大潟村入植者と国との農地配分契約においては、各入植者は事業団法二〇条一項の基本計画に示された方針に従って営農することが義務づけられ、これに違反した場合には、一〇年間に限って国が配分農地を買戻すことができるとされているところ、変更基本計画に示された田畑複合経営としての稲と畑作物の作付割合は、昭和五一年一月二四日付農林省構造改善局長通達(五一構改A第八三号)をもって、農家一戸当りの稲作許容面積の上限を8.6ヘクタールとすることが示されたが、過剰作付をする者が跡を絶たず、昭和五七年ないし同五八年には、国が過剰作付を行なった入植者を相手に配分農地の買戻措置を取り、訴訟提起を行う事態までに発展した。そして、昭和五八年六月には、入植者が国を相手として、配分農地の水稲耕作権確認の調停を秋田地方裁判所に申立て、同裁判所から調停案が提示されたが、申立人らがこれを受け入れずに不調に終わった。

(2) 大潟村は、干拓地特有の土壌、気象条件等から畑作の生産性は極めて不安定であるので、過剰作付の増大が見込まれたところから、その問題解決のために、昭和五九年一月二一日、秋田県、東北農政局、農林水産省へ要望書を提出し、その結果、大潟村の営農問題を検討するため、国、秋田県、大潟村関係機関等をメンバーとする大潟村営農懇談会が設置され、大潟村は村内一般農家二五名で組織する大潟村営農懇談会村内検討委員会等の答申を受けて、大潟村営農懇談会に「当面の田畑輪換比率を一〇対五とする」(すなわち、稲作上限面積を一〇ヘクタールに拡大する)ことを要望した。

(3) このような経過の中で、昭和六〇年一月一九日、①昭和五八年と同五九年の過剰作付について、前記調停案に従い、昭和五八年と同五九年の過剰作付相当の米については加工用原材料用米として売り渡す方法により、大潟村全体の問題として村民自らの手で是正すること、②昭和六〇年に新しいルールができた場合、このルールを遵守し再び過剰作付問題が発生しないよう村全体が自らを遵守すること、の二つの条件が満たされる場合には、稲作上限面積を一〇ヘクタールに拡大することに努力するとの知事案が提案された。大潟村としても、村内の関係機関等での検討を経たうえ、知事案は大潟村村民の悲願ともいうべき稲作上限面積の拡大を可能にするものであり、その実現に努力することとした。そして、その後開催された大潟村営農懇談会において、秋田県は国に対し、大潟村から出された「当面の田畑輪換比率を一〇対五とする」との案を正式に要望した。

(4) しかしながら、昭和五八年と同五九年の過剰作付分を加工原材料用米として是正することについては、過剰作付者の協力が得られず、また、秋田県からは解決のメドがなければ知事案を撤回する旨の意思表明があったことから、大潟村では、村内農家の意見を聞いたうえ、昭和五八年と同五九年の過剰作付分を村全体で処理する方法を検討し、国、秋田県の同意を得、更に、村内関係機関等の同意も得て、昭和五八年、同五九年の過剰作付分に相当する昭和六〇年産米を過剰作付者であると否とにかかわらず、村内各農家から加工原材料用米として売渡してもらい、これによって大潟村全体として知事提案にある昭和五八年、同五九年の過剰作付是正を図る、互助方式の採用を決定した。そして、大潟村は、加工原材料用米の売渡価格は通常の売渡価格に比して低価格であるため、村の協力農家に損失を与えないようにするため、村議会全員協議会に諮った上で、本件補助金の支出を決定した。

(5) 被告は、右の方針に基づき、昭和六〇年三月一八日、所要額二億七二二六万一〇〇〇円につき昭和六〇年度の補正予算として村議会の議決を得、更に、その後、所要額七三万九〇〇〇円について増額補正したうえ、同年一二月二〇日、カントリーエレベーターから秋田県経済連に対して昭和六〇年産加工原材料用米の売渡委託がなされるのをまって、同月二五日、二億七五六八万七六二八円の補助金交付決定を行い、更に昭和六一年三月二六日、補助金額を二億七二九九万九七六九円に変更する補助金交付決定変更を行って、右補助金額を支出した。その結果、国は、昭和六〇年三月三〇日、大潟村が予算措置を行った段階で、昭和六〇年産米から稲作上限面積を従前の8.六ヘクタールから一〇ヘクタールに拡大する措置を取った。

(二) 地方財政法四条の四違反について

地財法四条の四第三号及び大潟村財政調整基金条例六条三号には財政調整積立金の処分につき「その他必要やむを得ない理由により生じた経費」が挙げられており、その認定についても、地方公共団体が自主的に判断すべきものであり、「緊急に実施することになった大規模な土木、その他の建設事業の経費」に該当しないものであっても、地方公共団体にとって必要な行政水準を確保するために必要な事業と考えられるものは「その他必要やむを得ない理由により生じた経費」に含まれると解される。

本件補助金は、前記のとおり、大潟村村民にとって悲願ともいうべき稲作上限面積拡大を実現するものであって、大潟村の最大且つほぼ唯一の産業である農業生産の振興に寄与する最重点事項であり、しかも、当時、知事案が提案されたとはいえ、知事案実現のために必要な過剰作付者の協力を得ることが困難であり、秋田県からも解決のメドが立たなければ知事案を白紙撤回するとの意思表明も出されており、大潟村としては緊急に対応しなければならなかった状況を考えれば、本件補助金の支出は、地財法四条の四第三号及び大潟村財政調整基金条例六条三号所定の「その他必要やむを得ない理由により生じた経費」に該当することは明らかである。

(三) 地方財政法四条の五違反について

住民訴訟上の違法は、地方公共団体の財産的利益を擁護するという観点から評価すべきものであり、本件での寄付のように大潟村の財産を増加せしめる行為は、仮に対外的関係において違法であったとしても、住民訴訟上の違法ということはできないものであるから、原告らの右主張は主張自体失当というべきである。

また、農政対策費寄付金は、村民の自主的活動として大潟村農政対策推進会議が各村民に協力要請し、納入を受けたものであって、大潟村が徴収したものではないし、その方法も何ら強制にわたるものではなかったのであるから、地財法四条の五に違反するものではない。

(四) 地方自治法二三二条の二違反について

公益上の必要性の認定は、その判断につき著しい不公平もしくは法令違背が伴わない限り、地方自治体の判断を尊重することが地方自治の精神に合致する。

本件補助金は、前記のとおり、大潟村の悲願ともいうべき稲作上限面積を一〇ヘクタールに拡大することを実現するために支出されたものであり、大潟村が農業生産を最大且つほぼ唯一の主要産業としていることなどを考慮すれば、本件補助金の支出については、公益上の必要性が存在することは明らかというべきである。また、このことは、本件補助金の支出によって、稲作の上限面積が拡大すると、村民の所得増がもたらされることからも裏付けられる。

原告らは、知事案実現のための本件補助金の支出は、入植者が本来的に一五ヘクタールの水稲耕作権を有するのに、一〇ヘクタールで妥協することになり、五ヘクタールの水稲耕作権を放棄させるもので入植者全体の利益を害する旨主張するが、知事案は稲作上限面積を一〇ヘクタールに固定する趣旨のものではなく、一五ヘクタール全部を水田扱いに至る過程として位置づけられるべきものであって、原告らの右主張はその前提において誤っているものである。このことは、昭和六二年度には12.5ヘクタールまで拡大され、平成二年三月には一五ヘクタール全部が水田として扱われることになった経緯からも明らかである。また、村民全体の賛成がなければ、公益上の必要が認められないものではないから、原告らの主張は理由がない。

(五) 地方財政法二条一項違反について

地財法二条一項は一般的な訓示規定であり、これに違反する施策のための公金支出が直ちに違法となるものではない。

国の減反政策が個々の農家の協力を得て行う方法がとられているといっても、それは減反を法令によって義務づける方法がとられていないというにすぎず、村全体で過剰米が是正される方法を取ることは国の政策に何ら反するものではない。現に、前記のとおり、大潟村が互助方式を採用することについては、国、秋田県の了解を得て実施されたものである。

8  本件検問費用の支出について

(一) 被告は、秋田県から大潟村に対して不正規流通米防止のための本件検問への協力を要請され、大潟村としては、不正規流通米防止に協力することは当然のこととしてこれに応じることとしたが、村職員が直接検問所において指導に当ることは村民との感情的対立を招く恐れもあるため、①国(秋田食糧事務所)、秋田県の不正規流通米防止対策本部となった村営住宅一戸の提供、②検問所までの国、秋田県職員の案内、灯油・飲料水・弁当等の配達及びゴミ処理、③村内巡回の際の道案内の範囲内で本件検問に協力したものであって、大潟村が本件検問の実質上の主体者として行動したことはない。

(二) 本件検問へ協力した措置の違法が本件検問のための村費支出の違法を導くものでないことは、第二事件の請求原因に対する認否と反論の6項と同様であるから、これを引用する。

(三) 仮に、本件検問へ協力した措置の違法が本件検問のための村費支出の違法を直接導くとしても、本件検問が違法でないことは、第二事件の請求原因に対する認否と反論の7項のとおりであるから、これを引用する。

〔乙 第二事件について〕

第一  当事者の申立

一  請求の趣旨

1  被告は秋田県に対し、金三八一七万八〇〇四円及びこれに対する昭和六一年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告の本案前の答弁

1  本件訴えを却下する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

三  被告の本案に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告らは、いずれも秋田県の住民である。

(二) 被告は、昭和五四年四月から秋田県知事の職にある者である。

2  本件検問の実施

被告は、昭和六〇年一〇月七日、秋田食糧事務所とともに、大潟村に通じる道路五ケ所(後に二ケ所を追加)に不正規流通米臨時検問所を設置し、不正規流通米を取り締まるという名目で秋田県警の協力を得て、大潟村に出入りする車両の検問、村内パトロールを開始し、以後、引き続き同年一二月二五日まで二四時間体制で本件検問を行った。本件検問は、秋田県職員、秋田食糧事務所職員及び秋田県警の警察官によって行われた。

3  本件検問の違法性

(一) 本件検問は、秋田県職員が検問に際し、食管法一三条三項及び食管法施行規則(以下「食管法規則」という)七八条二項の臨検検査票を携帯していたことから明らかなように、食管法一三条二項及び食管法規則七八条一項に基づく臨検検査として実施されたものであるが、知事には臨検検査権限は認められないのであるから、被告によって実施された本件検問は違法である。

臨検検査の主体は食管法一三条二項により政府(国)と定められており、知事については何ら規定されていない。食管法規則七八条一項は知事を臨検検査権限を行使しうる主体であるかのように規定しているが、主要食糧の管理に関する事務は国の事務に属するから、知事が臨検検査権限を持つためには法律又はこれに基づく政令の委任を必要とするが(地治法一四八条一項、二項、同法別表第三)、現在のところ臨検検査権限を知事に委任する法律(食管法)又はこれに基づく政令はないから、右食管法規則の規定をもって、知事に臨検検査権限を認めることはできない。

(二) 仮に、被告に臨検検査権限が認められるとしても、臨検検査は一般に任意処分とされているものであり、また、仮に臨検検査が一定の強制力を伴う処分として無令状で許されるとしても、それは緊急かつ必要な場合でなければならず、その目的も犯罪捜査のために使われてはならない。しかるに、本件検問は、大潟村に出入りする車両を無差別且つ全面的に停止させたうえ、相手方の同意、不同意にかかわらず積荷の検査が行われるなど、その態様からして強制力の行使というべきものであるが、本件検問を行う必要性も緊急性も認められないうえ、被告は食管法の罰則規定を利用し、犯罪捜査の目的をもって本件検問を実施したものであるから、本件検問は憲法三一条(適正手続保障)及び同法三五条二項(令状主義)に違反し、違法である。

(三) 被告は本件検問の根拠を行政指導に求めているが、知事である被告には当該行政指導を行う組織法上の権限がないから、本件検問は違法である。

すなわち、行政指導が適法であるためには、当該行政機関の有する権限の範囲を超えてはならないという意味での組織法上の権限が必要である。不正規流通米の防止を含め、主要食糧の管理に関する事項は、国の機関委任事務に属し、知事がこれを行使しうるためには、法律(食管法)又はこれに基づく政令による委任が必要であるが(地治法一四八条一項、二項)、食管法三〇条によれば、主要食糧の管理に関する権限については政令の定めるところによるとしているものの、現在までに右政令は制定されておらず、知事への委任はなされていない。食管法上、知事の権限は、米穀の卸売、小売の流通段階の管理に限定されており(食管法八条の三第一項)、本件検問は米穀の生産者からの移動を規制する狙いをもった集荷面に関する事務であって、知事には右事務についての組織法上の権限がないから、知事である被告が本件検問を行政指導として行うことはできない。したがって、行政指導としてなされた本件検問は違法である。

(四) 仮に、被告が本件検問を行う組織法上の権限があるとしても、前記のとおり、その態様からして、本件検問は強制にわたる権力的行政活動であり、非権力的行政活動である行政指導にその根拠を求めることはできないから、違法である。

(五) 本件検問は、検問所での自動車検問のほか、大潟村内の住居、倉庫等への無断立ち入り、無線機付自動車による村内巡回パトロールを行うなど、大潟村全体を二四時間監視する体制で行われた。かかる態様の本件検問は、大潟村村民の社会生活上の自由を著しく抑圧し、プライバシーをも侵害するものであって、憲法一三条が保障する人格権を侵した違法なものである。

また、本件検問は大潟村のみを対象として行われた点において、憲法一四条の保障する法の下の平等にも違反し、違法である。

(六) 秋田県警が実施に協力した本件検問が、食管法違反行為の予防ないし違反者の検挙を目的とした警戒検問であれば、本件検問は警戒検問としての適法要件を充足していない違法のものであるから、秋田県警と共同し、一体的に本件検問を行った秋田県知事にも違法があるというべきである。

また、仮に、秋田県警が実施した本件検問が適法であったとしても、警戒検問は警察の所轄事項であり、秋田県知事が行いうるものではないから、秋田県警と共同して行った秋田県知事は違法な行政活動をしたことになる。

4  本件公金支出の違法性

(一) 被告は、本件検問の費用として総額三八一七万八〇〇四円(以下「本件公金」ともいう)を支出した。

(二) 被告の実施した本件検問は前項のとおり違法であるから、その費用のための三八一七万八〇〇四円の県費支出も違法となる。

(三) ところで、非財務的行為と公金支出との間に、前者が後者の原因となっているという関連性があれば、原因たる非財務的行為の違法が公金支出の違法を導くものと解されるが(最高裁昭和五二年七月一三日判決、判例時報八五五号二四頁、同昭和六〇年九月一二日判決、判例時報一一七一号六二頁)、その原因関係をより具体化すれば、非財務的行為と公金支出との間に実質的に見て「密接不可分」ないし「直接的」と評価しうる関係があることを要するものと解される。本件検問とその費用としての公金支出との間には、前者が後者の原因となり、実質的に見て密接ないし直接的な関連性がある。

すなわち、本件検問はそれ自体費用の支出を伴うものであり、本件検問とその費用としての公金の支出は、非財務的行為とそれ自体に要する費用の関係にあって、両者の関係は密接ないし直接的であり、地方財政の公正確保という住民訴訟の制度目的からみても、違法な本件検問を原因とする本件公金支出は違法な非財務的行為に基づく公金支出として住民訴訟の審理対象になるものである。

5  責任原因と損害

被告は、違法であることを認識し若しくは認識し得たにもかかわらず、故意若しくは重大な過失に基づいて本件公金の支出を決定した。その結果、秋田県は本件公金と同額の損害を被った。

6  監査請求の前置

原告らは、昭和六一年七月二三日、秋田県監査委員に対し、本件公金の支出について、地治法二四二条に基づき監査請求を行ったところ、同監査委員は、同年九月二〇日付で原告らに対し、被告の支出した三八一七万八〇〇四円の検問費用は違法または不当な公金支出にあたらない旨の監査結果を通知した。

7  よって、原告らは被告に対し、地治法二四二条の二第一項四号に基づき、秋田県の被告に対する前記違法な公金支出による損害賠償請求権を代位行使し、秋田県が被った損害金三八一七万八〇〇四円及びこれに対する昭和六一年四月一日から支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を秋田県に支払うよう求める。

二  被告の本案前の主張

本件訴えは、原告らが被告に対し、本件検問のために支出された経費は違法な公金の支出であるとして、秋田県に代位して損害賠償を請求するものであるが、被告は本件検問のために支出された経費についての支出命令の権限を有しなかったのであるから、地治法二四二条の二第一項四号にいう「当該職員」とは言えず、したがって、本件訴えは被告適格を有しない者への訴えとして不適法却下を免れない。

すなわち、地方公共団体の公金の支出は、出納長又は収入役が長の命令(支出命令)に基づいて行うものであるが(地治法二三二条の四第一項)、長はその権限の一部を吏員に委任することができ(地治法一五三条一項)、長が支出命令の権限の一部を吏員に委任するためには必要な事項を規則で定めなければならないところ(地治法施行令一七三条の二)、秋田県においては、秋田県財務規則が制定され、その三条において、一件の金額が三〇〇万円以上三〇〇〇万円未満の支出命令は部局長の、三〇〇万円未満の支出命令は課長のそれぞれ専決事項とされており、一件の金額が三〇〇〇万円未満の支出命令の権限は部局長、または課長に委任されている。本件検問のために支出された経費の内訳は別紙不正規流通米臨時検問所設置費予算施行状況調記載のとおりであり、一件の支出金額はいずれも三〇〇〇万円未満であるから、被告はこれらの経費に係る支出命令の権限を有せず、当該経費の支出はいずれも受任者たる部局長または課長が自己の権限による支出命令に基づいてなしたものである。

右支出命令の委任は、地治法という法律上の根拠に基づき、その形式も規則という公示を要する法形式によっており、委任の範囲も特定されているものであって、当該権限は内部的にも、外部的にも受任者に移り、委任者は全くその権限を失うことになる、いわゆる「外部委任」に当たることは明らかである。仮に、右支出命令権限の委任がいわゆる「内部委任」であったとしても、内部的には、支出命令の決定は受任者に移るものであり、本件におけるような地治法二四二条の二第一項四号所定の「当該職員」に対する代位請求訴訟が、違法な財務会計上の職務執行として当該地方公共団体に損害を与えた当該長または職員の個人責任を追求する制度であることを考慮すれば、内部委任をして自己の権限を離れ、自ら処理しない事務についてまで責任を問われることはおよそありえないものというべきである。もとより、長である被告は、「外部委任」「内部委任」の場合にも、地治法一五四条所定の指揮監督権限を有するが、当該指揮監督権限は地方公共団体の事務が適正な管理・執行を図るための一般的なものにすぎず、財務会計上の行為を行う権限とはその性質を異にするものであって、右指揮監督権限の存在を理由に「当該職員」に当たるとすることはできないといわざるを得ない。

三  被告の本案前の主張に対する原告らの反論

秋田県財務規則三条は内部委任を定めた規定にすぎず、本件公金支出に関わる支出命令権限は、法令上知事である被告が本来的に有しているのであるから、被告知事に本件訴えの被告適格があることは明らかである。

いわゆる専決(内部委任)は、知事の権限に属する事務の意思決定が、副知事、助役その他の下級機関によって行われ、対外的には長の名で表示される方式である。専決は行政組織内部の事務分配であり、その性格は長の下級機関に対する職務命令にすぎないから、事実上の意思決定者は、専決権者たる下級機関であるが、法律上の権限が移動していないから、行為者は法律上の権限を有する知事となる。

秋田県では、行政事務の専決処分について、その意義及び専決権者一般を訓令である秋田県事務決裁規程で定め、専決権者について特別の定めがある場合はそれによることとしている(秋田県事務決裁規程一条、二条)。この事務決裁規程が内部委任の規程であるのは、専決という文言を用い、専決事項であっても、重要な場合には、知事が直接権限を行使しうるという、いわゆる専決留保規定(同七条)を置いていること等から明らかである。秋田県財務規則三条についても、専決という内部権限分配に使われる言葉を特にことわることなく使用していることからも内部委任の規定であることが明らかである。財務上の専決処理につき、秋田県事務決裁規程とは別に、秋田県財務規則で定められているのは、地治法施行令一七三条の二により、「財務に関し必要な事項は規則で定める」とされているからであって、外部委任の根拠規定である地治法一五三条一項に基づくとの被告の主張は誤りであり、公示を要する規則という法形式によって専決を定められたからといってその性格が変わるものではない。したがって、秋田県財務規則三条によって、本件公金支出の支出命令が部局長または課長によってなされたとしても、被告は右支出命令について本来的な権限がなくなるわけではなく、被告は補助機関としての部局長または課長(地治法一六一ないし一七五条)が適切に職務を遂行するよう指揮監督する権限として留保されているのであるから(地治法一五三、一五四条)、被告が右指揮監督義務を怠り、部局長または課長の補助機関によってなされた本件支出命令が違法である場合には、被告自身地治法二四二条の二第一項四号によりその損害賠償責任を負担するといわざるを得ず、被告に本件訴えについての被告適格があることは明らかである。

四  請求原因に対する認否と反論

1  請求原因1項(当事者)及び2項(本件検問の実施)の事実は認める。

2  同3項(本件検問の違法性)の事実は否認し、その主張は争う。

3  同4項(本件公金支出の違法性)の事実は否認し、その主張は争う。

ただし、本件検問の実施に当たって秋田県が支出した経費の合計額が三八一七万八〇〇四円であることは認める。その内訳は別紙不正規流通米臨時検問所設置費予算施行状況調のとおりである。

4  同5項(責任原因と損害)の事実は否認する。

5  同6項(監査請求の前置)の事実は認める。

6  本件検問の違法性はその費用としての本件公金支出の違法を導くものではない。

非財務会計行為の違法が財務会計上の行為の違法をもたらすのは、両者に「直接の関係ないし結びつきがあること」、あるいは「密接不可分であること」が認められる場合に限られるものである。右基準を具体的に言えば、当該非財務会計行為が法的には抽象的にも当該地方公共団体の公的行為(公務)として成立する余地がない場合か(最高裁昭和五二年七月一三日判決・民集三一巻四号五三三頁)、それ以外の単なる違法にあっては、仙台地裁昭和六二年九月三〇日判決、判例タイムズ六七二号一五四頁が判示するとおり、①先行行為たる非財務会計行為を行うことの主たる目的が実質的に見て後行する公金支出に向けられていると評価できるものであること(最高裁昭和五八年七月一五日判決、民集三七巻六号八四九頁)、または、②先行行為たる非財務会計行為を行うことによって手続上他に何らの支出負担行為(支出決定)を要せず当然に地方公共団体が後行する公金の支出義務を負担することになる場合(最高裁昭和六〇年九月一二日判決、判例時報一一七一号六二頁)に限られる。本件検問と本件公金支出との関係は右基準にはいずれも該当しない。すなわち、本件検問の費用として公金支出の原因となった行為は、秋田県職員の時間外勤務・公務出張等の行為であり、本件検問の実施は右行為の目的、動機であるにすぎないのであって、かかる場合には本件検問の実施がその費用としての公金支出と密接不可分あるいは直接の関係ないし結び付きがあるとはいえない。したがって本件検問の違法は本件検問費用としての本件公金支出の違法を導くものではない。

原告らの主張を認めるとすれば、非財務会計行為の適否が住民訴訟の審理の対象となり得ることとなり、それでは地治法が住民訴訟の対象を財務会計上の行為に限った趣旨が没却されることになるからである。

7  仮に、本件検問の違法がその費用としての本件公金支出の違法を導くものであるとしても、大潟村において、国との農地配分契約に基礎を置く稲作上限面積や生産調整の一貫としての限度数量を無視した過剰作付が行われ、特に昭和六〇年産米については、その過剰作付の状況から大量の不正規流通米の発生が予想されたため、被告は米の不正規流通の防止を目的として、秋田県の行政指導として本件検問を実施したものであって、本件検問は何ら違法なものではない。

(一) 不正規流通米

食管法により、米穀の需要はすべて国の管理のもとに置くと定められ、農林水産大臣は毎年米穀の管理に関する基本計画を定めることとされており、その内容は、米穀の生産者が直接または食管法八条の二第三項の指定集荷業者に委託して政府に売渡すもの(以下、「政府米」という)、生産者が第一次集荷業者に対し、自主流通に係る販売のための委託をして売渡すもの(以下、「自主流通米」という)とに分かれる。政府米については政府への事前売渡申込制度が採られており、毎年、農林水産大臣は、都道府県ごとに生産者申込限度数量の合計数量の限度を定めて知事に通知し、これを受けて知事は市町村ごとに生産者別に申込限度数量の合計数量の限度を定めて市町村長に通知し、更に、市町村長は各生産者ごとの生産者別申込限度数量を定めて当該生産者に通知することとなっている(政府に売渡すべき米穀に関する政令一条の二ないし四、以下「売渡令」という)。各生産者が右の限度数量を超えて生産した超過米は、自主流通米と同様集荷業者に委託のうえ指定法人へ売渡されるものであるが、その価格は指定法人と指定需要業者団体との協議によって決定され、結局、適法に売却される米穀は、原則として集荷業者の手を経ることとなる。右以外のルートによって売却される米穀は、食管法施行令八ないし一一条の例外を除いてすべて不正規流通米(ヤミ米、以下「不正規流通米」という)である。原告らは、食管制度は形骸化し米の不正規流通は今や公然と行われていると主張し、これを自由米と称しているが、自由米またはヤミ米なるものは現行の食管制度の下においては存在すべからざるものである。

(二) 本件検問の実施

本件検問は不正規流通米の発生を防止するために実施されたものであるが、その方法は、不正規流通米の積載されているおそれのあるトラックなどの大型車、幌つきの中型車等に限定し、また、運転者等に対する質問や積荷の見分あるいは正規ルートに戻すようにとの指導についてはいずれも強制力を持たない任意の行為であり、拒否された場合には止むを得ないものとして通過させることが、予め秋田県、秋田食糧事務所、秋田県警の三者で確認され、その旨関係職員にも周知徹底された上で実施されたものである。また、本件検問は、①秋田県警の警察官が車両の停止を求めて免許証の提示を求め、行き先、積荷について質問し、積荷の見分について了解を求める、②秋田食糧事務所職員が右了解が得られた後、積荷を見分し、必要に応じて「さし」で積荷の内容を調査する、③秋田県職員は前記了解を得た後、積荷を見分するが、その方法はあくまで外観からの見分に止めるなど、秋田県警、秋田県及び秋田食糧事務所の三者でその役割が厳密に分担され実施された。

(三) 本件検問の違法性に対する被告の反論

(1) 秋田県は本件検問を行政指導として行ったものである。行政指導は作用法上の根拠は勿論、組織法上の根拠も必要ではなく、行政機関はその任務の範囲内であればこれをなし得るものである。また、地方公共団体は、本来、その公共事務を処理することを存在の目的とするものであるから、法令による制限がある場合を除いて、当該地方公共団体の裁量において多種多様の公共事務を処理できるものであり、そして、普通地方公共団体の事務を例示した、地治法二条三項三号、一七号、同条六項四号、あるいは前記のとおり、知事は生産者別限度数量の割当事務を担当しているものであって、これに付随して、右の割当てた限度数量が適正に集荷されるよう措置すること(換言すれば、不正規流通米が発生しないように措置すること)もその責務に含まれることからも、被告に本件検問を行政指導として行う権限が認められる。

(2) 原告らは、本件検問を担当した県職員が臨検検査のための証票を携帯していたことを根拠として、本件検問が臨検検査としてなされた旨主張しているが、秋田県は職員に臨検検査のため右証票を交付していないうえ(身分証明書を携帯させた)、臨検検査はその性格上、強制的なものとして行われるものであるが、本件検問は前記のとおり任意のものとして行われたものであるから、臨検検査に該当しないことは明らかである。

(3) また、原告らは、本件検問の態様が強制的なものであったと主張して、本件検問の違法性をるる主張しているが、これらの主張は本件検問の第三者との関係における対外的な違法を内容とするものであり、(これらは、本来、本件検問により被害を受けたとする者から不法行為を理由とする秋田県に対する損害賠償請求訴訟において問題とされるべきものである)、住民訴訟において問題とされる本件検問の違法性は、あくまでも地方公共団体の財産的利益を擁護するという観点から評価されるべきものであるから、原告らの右主張は本件公金支出の違法を導くものではない。

(4) 更に、原告らは、秋田県警による警戒検問に関して、本件検問の違法性をるる主張しているが、これらの主張は本件検問の対外的関係における違法を内容とするものであるうえ、本件検問は、秋田県、秋田食糧事務所、秋田県警の各機関がそれぞれ厳密に役割分担を行い、警戒検問はすべて秋田県警が行ったものであり、その警戒検問も適法になされたものであるから、原告の右主張も理由がない。

〔丙 証拠関係〕

第一事件及び第二事件の証拠は、本件記録中の証拠目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一第一事件及び第二事件の請求原因1項(当事者)及び6項(監査請求の前置)の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二大潟村の営農問題について

<証拠略>によれば、以下の事実を認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。

1  大潟村は、国営八郎潟干拓事業によって造成された中央干拓地において、将来の日本の農家のモデルとなるような生産性及び所得水準の高い農業経営と新しい村にふさわしい近代的な農村社会を作る目的で、国費を投じて建設された村であり、昭和四二年から同四五年までの間に第一次ないし第四次までの入植者四六〇名が入植し、第四次までの入植者に対しては、中央干拓地においておよそ一〇ヘクタールの農地が配分された。

入植者と国(農林大臣)との農地配分契約においては、入植者は事業団法二〇条一項の基本計画に示された方針に従って営農すること及びこれに違反したと農林大臣が認めるときは、入植者の土地所有権取得後一〇年間に限り当該土地を負担金相当額をもって買収することができる旨規定されていた。そして、中央干拓地における営農形態については、事業団法二〇条一項を受けた基本計画によって、当面は水稲単作とする旨定められ、入植者はこれに従って農業を営んでいた。

2  ところが、昭和四五年ころより急激に米の生産過剰状態が生じ、このため、国はいわゆる減反政策(生産調整)を開始し、大潟村においても、国は、中央干拓地の残地について、第一次ないし第四次入植者に対する五ヘクタールの追加配分と第五次入植者に対する一五ヘクタールの農地配分の募集を行う一方で、生産調整の一環として、入植者全体が一五ヘクタールについて稲作畑作をほぼ半々とする複合営農方針を打ち出し、昭和四八年九月八日付で基本計画を変更し、従来の「水稲単作」から「当分の間、概ね稲作と畑作は同程度とする」旨の変更基本計画の通達を出した。

そして、農林省は変更基本計画に示された田畑複合経営としての稲と畑作物の作付割合を、昭和五一年一月二四日付農林省構造改善局長通達(五一構改A第八三号)をもって、入植者一戸当りの稲作許容面積の上限を8.6ヘクタールとする旨定めた。

3  昭和四九年に第一次ないし第四次入植者に対する五ヘクタールの農地の追加配分及び第五次入植者に対する一五ヘクタールの農地配分が行われ、昭和五〇年から変更基本計画に基づく営農が行われた。農林省は、変更基本計画に基づく稲作許容面積8.6ヘクタールの範囲内において、稲の作付を行うよう入植者を指導したが、入植者の一部には8.6ヘクタールを超える作付、いわゆる過剰作付を行い、特に昭和五三年には、大潟村村議会の全員協議会が12.5ヘクタールの水稲作付を行うことを決定し、全入植者が右決定に基づいて稲の作付を行ったことから、農林省からの是正指導があり、結局、入植者は作付をその許容面積内にするためにいわゆる青刈りをするに至った。

4  その後も、農林省は入植者に対し、配分契約に基づき、8.6ヘクタールの稲作許容面積を遵守して作付すること、これに違反する場合には農地の買戻しを行うことを告げるなどして、いわゆる過剰作付の指導、是正を行ってきたが、入植者の一部はこれに従わずに過剰作付を行った。

入植者によるいわゆる過剰作付の背景には、入植者は変更基本計画で示された「当分の間」とは二、三年であり、第一次ないし第四次入植者の追加農地及び第五次入植者の配分農地の償還金支払時期である昭和五三年までには、8.6ヘクタールの作付制限が変更されるであろうと考えていたところ、右償還金の支払時期が到来しても、変更基本計画は変更されないまま償還金の支払が始まったこと、入植者が配分を受けた一五ヘクタールの農地のうち、稲作許容面積の8.6ヘクタールを除いた残りの6.4ヘクタールについては、当時中央干拓地がヘドロ土壌で畑作に向かず、畑作による収益の見通しがなかったこと、一五ヘクタールの登記簿上の地目は田であったが、農林省は変更基本計画を根拠に6.4ヘクタールについては田ではないとしていたため、入植者は6.4ヘクタール分については転作奨励金等の補助金の支給を受けられなかったことなどの経済的な事情があった。

国は、昭和五七年と五八年に、指導に従わずいわゆる過剰作付を行った入植者二名に対し、配分契約に基づいて、農地の買戻し措置を取り、同人らを相手に秋田地方裁判所に対し訴訟を提起するに至った。

5  このような状況の中で、国の作付制限に反対する原告ら(以下、特に断わらない限り、第一、第二事件原告らを指す)を中心に組織する農事調停会は、昭和五八年六月、国を相手に、一五ヘクタールの水稲耕作権の確認を求めて、秋田地方裁判所に農事調停の申立てを行った。

右調停の中で調停委員会からは、概要、①昭和六二年三月末日までの営農については、申立人らは国の方針に従ってこれを行う、②申立人らのうち昭和五八年度、同五九年度国の指導する面積を超えて稲を作付した者は、超過作付面積分の農地から収穫した量に相当する米を、加工原材料用米として売渡す方法により処分する、③前項の措置が取られたときは、国は超過作付を理由として、申立人らと国との間の契約に基づく売買予約完結権行使の意思表示をせず、次年度の米の作付割当量を減少させない、との調停案が示されたが合意に至らず、昭和五九年一一月一五日、調停は不調に終わった。

原告らは、事業団法二〇条に基づく基本計画の変更は、同条二項により物的施設などいわゆるハード面に限定されるものであり、何を作付するかのいわゆるソフト面については同法は予定していないものであるから、変更基本計画に「稲と畑作をほぼ同程度とする」という営農のソフト面を規定することは有効性に問題があるうえ、昭和五六年六月一〇日には、事業団法が廃止され、それに伴って基本計画も当然消滅したのであるから、国が入植者との配分契約に基づいて、作付制限を行うことはできない旨主張する。また、仮に、国が基本計画に基づき作付制限をできるとしても、変更基本計画にいう「当分の間」とは、償還金支払時期までということで国と入植者との間で合意されていたものであるから、いずれにしても、国は入植者に対し、配分契約に基づいて作付制限を行うことはできない旨主張し、国による配分契約に基づく作付制限は無効であるとして、一五ヘクタール全部の水稲耕作権を国に対して主張している。

以上の事実が認められる。

三互助方式に基づく本件補助金支出について

1  本件補助金の支出とその経緯

<証拠略>によれば、以下の事実を認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。

(一)  農事調停会による調停申立後の昭和五九年一月二一日、大潟村の村長、村議会議長及び農業委員会会長等の大潟村関係機関の代表者らは、国(農林省、東北農政局)及び秋田県に対し、作付面積の拡大を実現し、大潟村の営農問題を打開するため、大潟村の営農問題についての検討委員会の設置等を要望した。その結果、大潟村の営農問題を協議するための、国、秋田県及び大潟村関係機関等をメンバーとする大潟村営農懇談会が設置され、同年七月五日に第一回協議が行われた。

被告宮田は、大潟村の営農問題について、村内の一般農家二五名で組織する村長の諮問機関である大潟村営農問題懇談会村内検討委員会からの答申、村内の各団体の代表者で組織された調整委員会等の協議を経た後、昭和五九年一二月七日に行われた第四回の大潟村営農懇談会において、当面の田畑輪換比率を一〇対五とする、すなわち稲作上限面積を一〇ヘクタールに拡大することを大潟村の案として国に要望したところ、国からは大潟村で稲の過剰作付を是正してからその要望をすべきではないかなどの意見が出され、秋田県に対しても、減反政策との兼ね合いで秋田県内の農家への影響等について意見が出され、被告宮田の右提案について引き続き協議することとなった。

このような状況の中で、被告佐々木は、昭和六〇年一月一九日、①昭和五八年、同五九年の過剰作付について、調停委員会によって示された前記調停案(昭和五八年と同五九年の過剰作付相当の米については加工原材料用米として売渡す方法により処分する)に従い、村全体の問題として村民自らの手で是正すること、②昭和六〇年に新しいルールができた場合、このルールを遵守し、再び過剰作付問題が発生しないよう村全体が自らを律すること、の二つの条件を掲げ、これが満たされる場合には国との折衝により、稲作上限面積を一〇ヘクタールに拡大することを実現努力するとの知事案を提案した。

そして、昭和六〇年一月二六日に行われた第五回大潟村営農懇談会において、秋田県は国に対し、大潟村から出された「当面の田畑輪換比率を一〇対五とする」との案を正式に要望し、これに対し、国は大潟村が知事案の二つの条件を満たすため不退転の決意で臨むことなどを前提として、稲作上限面積の見直しを含む何らかの措置を検討することになった。

被告宮田は、知事案は配分契約に基づく稲作上限面積の拡大を実現するものであり、大潟村村民の利益になるとの判断から、知事案の実現に努力することとした。

(二)  大潟村は、知事案実現のため、昭和五八年と同五九年の過剰作付相当の米(二万四〇〇〇俵余り)を加工原材料用米として売渡す方法により是正することとなっていたが、いわゆる過剰作付者自身が自主的に是正することが望ましいとの考えから、過剰作付者らに対し協力要請したものの、過剰作付者らは作付問題はあくまでも国との契約問題であるとして、秋田県及び大潟村の介入を拒否したため、協力を得られなかった。しかも、秋田県からは解決のメドが立たなければ知事案を白紙撤回する旨の意思表明があったことから、大潟村では、作付制限を遵守している農家の意見を聞いたところ、村全体で処理するとの提案が出された。そこで、大潟村では、昭和五八年と同五九年のいわゆる過剰作付分を村全体で是正することを検討し、被告宮田は、秋田県の同意を得て、更に、村内関係機関等の同意も得て、昭和五八年と同五九年のいわゆる過剰作付分相当の米(二万四〇〇〇俵余り)を過剰作付者か否かにかかわらず村内農家から加工原材料用米として売渡してもらい、これによって村全体として昭和五八年、同五九年の過剰作付を是正する、いわゆる互助方式の採用を決定するに至った。

そして、被告宮田は、加工原材料用米の売渡価格は通常の売渡価格に比して低価格であるため、これに協力する農家に損失を与えないようにするために、次のような案を大潟村村議会全員協議会に諮ったうえで、本件補助金の支出を決定した。

(1) 一般農家については、一俵六〇キログラム当たり政府買入れ三類三等価格一万七一八五円から加工用米三等価格五七一四円を差引いた一万一四七一円を補填する。

(2) いわゆる過剰作付農家については、本来自らの米を加工原材料用米として売渡し是正すべきで何ら補填する必要はないが、特に協力を得るための措置として水田利用再編対策の中で示されている他用途米三等価格九九一四円から加工用米三等価格五七一四円を差引いた四二〇〇円を補填する。

(3) 右各補填金は、各協力農家から加工原材料用米として売渡委託を受ける集荷業者であるカントリーエレベーターに農政対策費補助金として補助し、カントリーエレベーターはそれぞれ個別の米の数量に応じて補填金を算定し、協力農家に米代金の支払を行う方法による。

(三)  被告は、右の方針に基づき、昭和六〇年三月一八日に行われた村議会に、本件補助金二億七二二六万一〇〇〇円について、歳入予算として財政調整繰入金二億五二八〇万一〇〇〇円、農政対策費寄付金一九四六万円、歳出予算として農政対策費補助金二億七二二六万一〇〇〇円をそれぞれ計上した昭和六〇年度補正予算案を提出し、大潟村村議会において議決を得た。更に、その後、被告は、所要額七三万九〇〇〇円について、昭和六一年三月の大潟村村議会において追加補正予算案を提出して議会の議決を得たうえ、昭和六〇年一二月二〇日、カントリーエレベーターから秋田県経済連に対し、昭和六〇年産加工原材料用米の売渡委託がなされるのをまって、カントリーエレベーターに対し、同年一二月二五日に二億六七四一万七〇〇〇円、昭和六一年四月七日に五五八万二七六九円、合計二億七二九九万九七六九円の本件補助金を支出した。

その結果、国は、昭和六〇年三月三〇日、大潟村が予算措置を行った段階で、昭和六〇年産から稲作上限面積を従前の8.6ヘクタールから一〇ヘクタールに拡大する措置を取った。

以上の事実が認められる。

2  本件補助金支出の違法性の有無

(一)  ところで、第一事件原告らは、知事は知事案を提案したうえで、本件検問や過剰米の価格強制を行ったものであり、知事のこれら一連の行為は、本来一五ヘクタールの水稲耕作権を有する入植者に減反政策を強制したものであって、違憲、違法である旨主張し、更に、互助方式は知事の違法な右減反政策の前提としてなされ、その一翼を担ったものであるから、互助方式に基づく本件補助金の支出も、知事による違憲、違法な減反政策の強制と同様、違憲、違法である旨主張している。

しかしながら、前記認定のとおり、互助方式は、大潟村が知事案の提案を受けて、これを実現するために、大潟村内の各関係機関で協議を経たうえ、被告宮田がその採用を決定したものであり、本件検問及び過剰米の価格強制は、第一事件原告らの主張からも明らかなとおり、いずれも互助方式が採用された後になされたものである(本件検問については後記五項1ないし3記載のとおりである)。したがって、第一事件原告らが、互助方式が採用された後の知事による行為の違法若しくはこれらを含めた形での知事による行為の違法を前提に、本件補助金支出の違法を主張することは、後行行為の違法を理由として先行行為の違法に導くとの主張であって、その主張自体理由がないといわざるを得ない。

また、いわゆる減反政策と互助方式のつながりが第一事件原告らの主張によっても明確でなく、互助方式が知事による減反政策強制の前提としてなされたことを認めるに足りる証拠もないから、第一事件原告らの右主張はいずれにしても採用できない。

(二) 地方財政法四条の四違反について

第一事件原告らは、本件補助金は地財法上の積立金である財政調整繰入金から取崩されているが、積立金の取崩しは地財法四条の四にその事由が限定されているのであって、本件補助金の支出は当該事由に該当しないから、地財法四条の四に違反し、違法である旨主張する。これに対し、被告宮田は、本件補助金の支出は地財法四条の四第三項後段の事由(その他必要やむを得ない理由により生じた経費)に該当する旨主張する。

本件補助金の一部が大潟村の財政調整繰入金から取崩され支出されたものであることは前記認定のとおりであり、財政調整繰入金が地財法上の積立金(地財法四条の三)であることは当事者間に争いがない。

ところで、地財法四条の四は、地方公共団体が、その積立金を処分できる場合を列挙し、これを限定している。右の限定は、地方財政の健全性を確保し、以て地方自治の発達に資することを目的とするものであることが明らかである(同法一条)。

右趣旨に照らせば、地財法四条の四第三項後段の事由(すなわち、「その他必要やむを得ない事由により生じた経費」)を便宜的に拡張解釈することは許されず、右事由は、同号前段の事由(「緊急に実施することが必要になった大規模な土木その他の建設事業の経費」)と比較対照した場合においても、それに匹敵するような緊急性、必要性を具備した事由による場合でなければならないものと解される。

しかし、他方で、具体的にどのような場合がこれに該当するかについては、事柄の性質上画一的に論ずることはできず、それぞれの地方公共団体が置かれた歴史的具体的条件の下で、また、それぞれが現実に当面している行政課題との関連で、果たして右のような事由に該当するか否かが個別具体的に検討されなければならない。

さらに又、地方自治が、究極には当該区域住民の民意に存立の根拠を置く当該地方公共団体のそれぞれの機関の自主的、自立的な判断により運営され維持されるのが本来であることを考慮すれば、その判断は、先ず、第一次的には当該地方公共団体の合理的な裁量に委ねられているものとみるべきであり、その判断が著しく不合理で、裁量権を逸脱し又は濫用していると認められる場合にのみ、積立金を取崩しての公金の支出が地財法四条の四に違反し、違法となるものと解するのが相当である。

これを本件についてみるのに、前記認定のとおり、本件公金支出の背景には、原告ら入植者の一部には、国の農地配分契約に基づく稲作の作付制限は無効であるとし、これに反対していわゆる過剰作付を行う者もいたが、国の農地配分契約に基づく作付制限が行われこれを遵守している入植者もいる状況の中で、稲作の作付面積の拡大はいわば全入植者にとっても共通の利益に資する事柄であり、農業生産が最大且つ唯一の産業ともいいうる大潟村にとっても当然最重要課題であったとみられること、大潟村は作付制限拡大のための知事案を受け入れたが、当時、知事案を実現するために、昭和五八年、同五九年の過剰米の是正に関し、いわゆる過剰作付者の協力が得られず、秋田県からも解決のメドが立たなければ知事案を撤回する旨の意思表明もなされるなど、大潟村として緊急に対応しなければならなかったこと、本件補助金を財政調整繰入金から取崩すことについては大潟村村議会の議決を経ていることなどの事情があったものである。

右の事情を考慮するならば、大潟村が互助方式に基づく本件補助金の支出について、地財法四条の四第三号後段の事由に該当する経費である旨判断して積立金を取崩し支出したことは、その判断が著しく不合理であり、裁量権の範囲を逸脱し又は濫用したものとはいえない。

したがって、第一事件原告らの右主張は理由がない。

(三)  地方自治法二三二条の二違反について

第一事件原告らは、本件補助金の支出は公益上の必要性を欠くものであるから、地治法二三二条の二に違反し、違法である旨主張する。

地治法二三二条の二により、地方公共団体は、「その公益上必要がある場合においては、寄付又は補助をすることができる。」とされているが、右「公益上の必要性」の有無の判断は、住民全体の福祉の向上という地方自治本来の理念に照らし、当該寄付の目的が正当であるか、その態様、程度が相当であるか等、諸般の事情を考慮して判断されるべきものであるが、地方自治の本旨に照らすと、その当否の判断は、第一次的には地方公共団体の合理的な裁量に委ねられているとするのが相当であり、その判断が著しく不合理で、裁量権を逸脱又は濫用していると認められる場合にのみ違法になるものと解するのが相当である。

これを本件についてみるのに、前記のとおり、本件補助金は、大潟村入植者の稲作作付面積の拡大を実現するために支出されたものであり、大潟村が入植者による農業を最大の産業として成立っていることなどに照らせば、その目的において公益性を有していることは明らかである。そして、<証拠>によれば、知事案が実現され、国から配分契約に基づいて求められている作付許容面積の上限が8.6ヘクタールから一〇ヘクタールに拡大されれば、入植者の所得は増大し、ひいては大潟村の税収増にもつながり、入植者を含む大潟村村民及び大潟村に本件補助金の金額以上の経済的効果がもたらされるものと考えられていたこと、前記認定のとおり、被告は互助方式の採用に際し、大潟村の関係機関等での協議を経ており、本件補助金支出についても、大潟村村議会で予算の議決がなされていることなどに照らすと、本件補助金は、その程度、態様においても、著しく不合理であるとは認められない。

第一事件原告らは、入植者らは基本的に一五ヘクタールの水稲耕作権を有しているのであって、一〇ヘクタールの水稲耕作権で妥協する互助方式は、五ヘクタールの水稲耕作権を放棄させるもので入植者全体の利益を害する旨主張するが、<証拠>によれば、知事案は稲作許容面積を一〇ヘクタールに固定化する趣旨のものではないことが認められるから、第一事件原告らの右主張は理由がない。

したがって、本件補助金は、地治法二三二条の二に違反する違法なものとはいえない。

(四)  地方財政法四条の五違反について

第一事件原告らは、本件補助金のうち歳入予算として計上された農政対策費寄付金は、実質的には、大潟村の村民に割当てられ強制的に徴収されたものであるから、本件補助金の支出は地財法四条の五に違反し、違法である旨主張する。

しかしながら、仮に、第一事件原告らが主張するとおり、右の農政対策費寄付金が地財法四条の五に違反して大潟村村民から強制的に徴収されたものであるとしても、それは寄付金を徴収された大潟村村民と寄付金を徴収した大潟村との間で問題とされるべき事項であって、右寄付金を財源としてなされた本件補助金の支出それ自体が当然に違法となるものでないから、第一事件原告らの右主張はそれ自体理由がない。

(五)  地方財政法二条一項違反について

第一事件原告らは、互助方式に基づく本件補助金の支出は国の政策に反し、地財法二条一項に違反する旨主張するが、同条は地財法の目的を示す地財法一条の規定を受け、健全な地方財政を運営するために、地方公共団体及び国が取るべき施策を一般的、抽象的に規定しているにすぎないものであり、健全な地方財政を運営するために規定された個別的、具体的な制限規定とはその性質を異にするものであるから、地方公共団体及び国に対する訓示規定と解せざるを得ない。

したがって、第一事件原告らの右主張はそれ自体理由がないといわざるを得ない。

(六)  以上のとおり、互助方式による本件補助金の支出は違法といえないから、第一事件原告らの被告宮田に対する本件補助金支出の違法を理由とする本件損害賠償請求はその余の点につき判断するまでもなく理由がない。

四第二事件の本案前の主張について

被告佐々木は、被告佐々木が本件検問のために支出された経費についての支出命令権限を有しなかったのであるから、地治法二四二条の二第一項四号にいう「当該職員」に該当せず、したがって、被告佐々木に対する訴えは被告適格を有しない者への訴えとして不適法である旨主張するので、この点について検討する。

1 地方公共団体の公金の支出は、出納長又は収入役が長の支出命令に基づいて行うものであり、(地治法二三二条の四第一項)、支出命令の権限は本来的に地方公共団体の長、すなわち、本件においては被告佐々木が有するものであるところ、<証拠略>によれば、秋田県においては、秋田県財務規則が制定され、同規則三条(決裁区分)において、財務に関する事務のうち知事の決裁事項並びに部局長及び課長の専決事項が定められ、本件検問にかかわる事項の決裁については、一件の金額が三〇〇万円以上三〇〇〇万円未満の支出命令は部局長の、三〇〇万円未満の支出命令は課長の専決事項と規定されている。そして、<証拠略>によれば、本件検問のために支出された経費の内訳は別紙不正規流通米臨時検問所設置費予算施行状況調記載のとおりであり、いずれも一件の支出金額は三〇〇〇万円未満であり、部局長または課長の専決によって支出されたものであることが認められる。

2 被告佐々木は、秋田県財務規則による知事の部局長または課長への委任は、内部的にも、外部的にもその権限が受任者に移り、委任者は全くその権限を失うことになる。いわゆる外部委任である旨主張する。

しかしながら、<証拠略>によれば、外部委任を定めたと解される秋田県の「衛生事務に関する知事の権限を保健所長に委任する規則」、「家畜防疫衛生事務に関する知事の権限を家畜保健衛生所長に委任する規則」は、いずれもその規則の中で「委任規定」と題する規定を置いて、知事が保健所長または家畜保健衛生所長に権限を委任できる根拠となる法律(前者については保健所法三条、後者については家畜伝染病予防法六一条、地治法一五二条二項)を示すとともに、「知事の権限に属する事務を委任する」という文言を用いて(甲一二〇号証の「社会保険に関する事務を社会保険事務所長に委任する規則」も同様である)、外部委任であることを明らかにしているが、これに対して、秋田県財務規則は委任規定と題する規定はなく、その三条(決裁区分)において、知事の決裁を要する事項及び部局長または課長の専決事項を定めるのみであり、「委任」の文言も用いていないなど、外部委任を定めた前記の各規則とは明らかにその内容体裁を異にしていることが認められる。また、<証拠>によれば、秋田県では秋田県事務決裁規程が制定され、その規程の中で、専決の意義が定められるとともに、その七条に専決の制限条項が定められており、秋田県事務規定がいわゆる内部委任を定めるものであることが認められるところ、前記のとおり、秋田県財務規則では秋田県事務決裁規程と同様、専決の文言を用いており、委任の文言が用いられておらず、財務に関する事務についての部局長または課長の専決事項が公示を要する規則の法形式によって定められている点については秋田県財務規則一条からも明らかなように、普通地方公共団体の財務に関し必要な事項は規則で定める旨規定した地治法施行令一七三条の二の規定を受けてなされているのであって、外部委任の根拠規定となる地治法一五三条一項に基づいているものではないと解される。

以上の点を考慮すると、秋田県財務規則による知事の部局長または課長の委任は外部委任と認めることはできず、その権限が外部的には移転せず、内部的にのみ移転するいわゆる内部委任と解するのが相当である。

3 更に、被告佐々木は、本件検問のために支出された経費にかかる委任が内部委任であったとしても、地治法二四二条第一項四号所定の「当該職員」に対する代位請求訴訟が、違法な財務会計上の職務執行として当該地方公共団体に損害を与えた当該長の個人責任を追求するものであることを考慮すれば、内部委任をして自己の権限を離れ、自ら処理しない事務についてまで責任を問われるべきではないと主張する。

しかしながら、内部委任は外部的には委任事項の権限が委任者である長にあるものであり、内部的にも長は受任者に対し指揮監督権限を留保するものであることを考慮すると、内部的に委任事項に関する意思決定権限が受任者に移ったことから直ちに委任者の長が地治法二四二条第一項四号の「当該職員」に該当しないものとして、長に対する同号に基づく住民訴訟を一律に不適法なものとすることは相当ではないから、被告佐々木の右主張は採用できない。

したがって、第二事件被告佐々木の本案前の主張は理由がない。

五本件検問のための公金支出について(第一、第二事件)

1  本件検問の実施とその経緯

<証拠略>によれば、以下の事実を認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。

(一)  食管法による米の流通

食管法により、米穀の需要はすべて国の管理のもとに置くことが定められ、農林水産大臣は毎年米穀の管理に関する基本計画を定めることとされており(食管法二条の二)、その内容は、米穀の生産者が直接または食管法八条の二第三項の集荷業者に委託して政府に売渡す政府米(食管法三条一項)、生産者が第一次集荷業者に対し、自主流通に係る販売(指定法人が自主流通計画に従って米穀を卸売業者に売渡す)のための委託をして売渡す自主流通米(食管法三条一項但書、食管法施行令)とに分かれる。

政府米については、政府への事前売渡申込制度が採られ、毎年、農林水産大臣は、都道府県ごとに生産者申込限度数量の合計数量の限度を定めて知事に通知し、これを受けて知事は市町村ごとに生産者別申込限度数量の合計数量の限度を定めて市町村長に通知し、更に、市町村長は各生産者ごとの生産者別申込限度数量を定めて当該生産者に通知することになっている(政府に売渡すべき米穀に関する政令一条の二ないし四)。政府米の政府買入価格は毎年政府が定め(食管法三条二項)、政府米の集荷は指定集荷業者が行うことになっている。各生産者が右の申込限度数量を超えて生産した超過米(食管法施行規則別表第一号の政府買入基準数量外米穀又は政府買入基準数量外見込米穀をいう)は、自主流通米と同様に指定集荷業者に委託のうえ指定法人へ売渡され、その価格は指定法人と指定需要者団体との協議によって決定される。右のルートによる米穀の流通はいずれも指定集荷業者の手を経ることとなっており、国は、食管法による米穀の流通を維持するため、食管法施行令八ないし一一条の例外を除いて、右以外のルートによって売却される米穀を不正規流通米として、その発生を防止するため種々の対策を講じてきた。

他方、現実には、右の食管法による流通ルート以外のルートで多量の米穀が流通しており、食管法による国の米穀の管理に反対する生産者(原告らもこれを支持する)、卸売業者等はこれを自由米と呼んで、独自の立場でこれを擁護し、米穀の流通自由化の確立を目指すとともに、不正規流通米の防止のための検問等の措置を批判している。

国は食管法による米穀の管理実現のもとに、従来から秋田県に対して、不正規流通米の防止対策を取るよう協力を求めていた。

(二)  大潟村では、一戸当りの農地が一五ヘクタールと広大であるとともに、国との配分契約に基づく稲作作付制限や減反政策(生産調整)の一貫としての限度数量を超えた過剰作付が行われていたことから、従来から米の不正規流通がしばしば行われていたところ、前記二、三項のとおりの経緯で、国は、昭和六〇年三月三〇日、大潟村への入植者に対し、昭和六〇年度産から配分契約に基づく稲作上限面積を従前の8.6ヘクタールから一〇ヘクタールに拡大する措置を取ったが、知事案に反して大潟村では昭和六〇年度のいわゆる過剰作付農家が一六二戸に上ることが判明した。

このため、従来より国から不正規流通米の防止措置を求められていた秋田県は、大潟村の右過剰作付の状況から多量の不正規流通米の発生を予想し、これを防止する目的で、農政部内での検討を経たうえ、被告佐々木による決裁を受けて、秋田食糧事務所との共同による本件検問の実施を決定した。

秋田県と秋田食糧事務所は、米の不正規流通を防止する目的で、同年一〇月七日、秋田県警の協力を得て本件検問を実施し(ただし、それ以前の同年九月二五日から道路検問は行われていた)、以後、同年一二月二五日まで本件検問を行った。本件検問では、同年一〇月七日、大潟村に通じる道路五ケ所に不正規流通米臨時検問所が設置され、更に、同月一四日に検問所二ケ所が追加設置されて、大潟村に通じる道路七ケ所に検問所が設置された。各検問所には、秋田県警の警察官二ないし三名、秋田県職員二名が配置され、米を積載した車両がいた場合には、大潟村村内に設置された本部で待機していた秋田食糧事務所の職員が無線による連絡を受けて現地に直行する体制で行われた。検問所での検問は、警察官が車両の停止を求め、免許証の提示、行先と積荷について質問し、積荷の検査について了解を得たうえで、食糧事務所の職員が積荷を見分、調査し、秋田県職員も積荷の見分を行う方法で、二四時間体制で行われた。本件検問は道路での検問のほか、大潟村内のパトカーによる巡回パトロールが行われた。

(三) 本件検問の実施に伴う費用として秋田県が支出した本件公金は、別紙不正規流通米臨時検問所設置費予算施行状況調記載のとおり、その合計金額は三八一七万八〇〇四円で、本件公金の支出は、前記四項1のとおり、いずれも秋田県の部局長または課長の専決事項として同人らの支出命令に基づき支出された。

(四)  本件検問の実施に際して、秋田県から大潟村に対して不正規流通米防止のため本件検問への協力要請がなされ、被告宮田は秋田県からの要請を受入れ、これに協力することとしたが、大潟村職員が検問所において指導に当たることは村民との感情的対立を招く虞があるとの配慮から、秋田食糧事務所及び秋田県の不正規流通米防止対策本部となる村営住宅一戸の提供、検問所までの秋田県職員等の案内、灯油・飲料水・弁当等の配達及びゴミの処理、村内巡回の際の道案内の範囲で協力した。大潟村が本件検問に協力したことに伴い支出した公金は、別紙不正規流通防止指導協力費記載のとおり、合計四五八万一三六五円である。

以上の事実が認められる。

2  本件検問の違法性と公金支出の違法性

原告らは、秋田県及び大潟村の本件検問費用としての公金支出が違法であるとする理由につき、本件検問自体が違法であるから、そのための費用としての公金支出も違法である旨主張する。

ところで、地治法二四二条の二に規定されているいわゆる住民訴訟の制度は、地方公共団体の執行機関又は職員による同法二四二条一項所定の違法な財務会計上の行為又は怠る事実が究極的には当該地方公共団体の構成員である住民全体の利益を害することから、これを防止するため、住民に対しその予防又は是正を裁判所に請求する権限を与え、もって地方財務行政の適正な運営を確保することを目的として法律が特別に認めた制度である。このように、住民訴訟は自己の利害に関わりなく提起できる民衆訴訟として、法律で特別に認められた例外的な訴訟類型であるから、その要件を安易に拡張解釈することはできないものであり、仮にこれを拡張して、財務会計上の行為の原因となる非財務会計行為の違法がある場合には当該財務会計上の行為も違法となるものと解し、当該非財務会計行為の違法性も住民訴訟の審理対象になるとすれば、地方公共団体の事務で公金の支出を伴わないものはないから、住民訴訟によって、広く行政一般の非違をただすことを許す結果となり、住民訴訟の対象を財務会計上の行為に限った地治法の趣旨、目的を明らかに逸脱する結果となる。したがって、非財務会計行為の違法を主張することは、住民訴訟の本来の趣旨、目的に違反し、原則として許されないものと解される。

もっとも、住民訴訟において問擬すべき財務会計行為の違法性は、当該行為により地方公共団体に財産的損失を与えることが法の許容するところであるか否かという観点から判断すべきものであるから、財務会計行為それ自体の違法性に限定されず、当該財務会計行為の原因となった非財務会計行為をも含めて一体としてその違法性を評価しなければならない場合のあることも否定できないところであるが、このような場合にも、財務会計行為とその原因となった非財務会計行為との間には、これを一体として評価しなければならない緊密な関係が要求されるものと解するのが相当である。そして、これをさらに具体的な基準として展開するならば、当裁判所は、仙台地裁昭和六二年九月三〇日判決(判例タイムズ六七二号一五四頁)と同様の見解であり、①の先行行為たる非財務会計行為を行うことの主たる目的が実質的に見て後行する公金支出に向けられていると評価できるものであること、又は、②先行行為たる非財務会計行為を行うことによって手続上他に何らの支出負担行為を要せず、当然に地方公共団体が後行する公金の支出義務を負担することになる場合に限定されるものと解するのが相当である。

また、住民訴訟において問擬すべき財務会計行為の違法性は、当該行為により地方公共団体に対する財産的損失を与えることが法の許容するところであるか否かという観点から判断すべきものであることからすると、公金支出の原因たる非財務会計行為に重大明白な瑕疵が存すれば、公金の支出は支出原因を欠き違法性を帯びるものと解されるから、このような場合にも住民訴訟の対象となり得るとするのが相当である。

そこで、右の基準に照らして、これを本件についてみるに、前記認定のとおり、秋田県による本件検問は不正規流通米の防止をその目的として行われたものであって、本件検問の目的が実質的に見て後行する公金支出に向けられているとは評価できないところであり、また、本件検問の実施は当然にその費用の支出を伴うものであるが、本件検問の実施決定によって、手続上他に何らの支出負担行為を要せず当然に秋田県が公金支出の義務を負担するものとはいえないから、仮に非財務会計行為としての本件検問が違法であっても本件検問費用としての県費の支出が当然に違法となるものではない。大潟村も本件検問に協力して職員等を派遣し、その費用として村費を支出するためには、支出負担行為を要するものと解されるから、仮に本件検問が違法であっても本件検問の費用として村費の支出も当然に違法となるものではない。

第二事件原告らは、本件検問と本件検問の費用の支出は、非財務会計行為とそれ自体に要する費用の関係にあるから、両者の関係は密接ないし直接的である旨主張するが、非財務会計行為とそれ自体に要する費用の関係をもって、違法な非財務会計行為を原因とする財務会計行為の違法性を認めることは、地方公共団体の事務のうち多くの事務について住民訴訟によってその違法性を争うことを可能にすることとなるが、かかる結果を住民訴訟制度が予想したものであるかについては、前記の住民訴訟制度の趣旨、目的に照らすと消極的に考えざるを得ず、第二事件原告らの右主張は採用できない。

もっとも、前記のとおり、公金支出の原因となる非財務会計行為に重大明白な瑕疵が存すれば、公金の支出はその支出原因を欠き違法性を帯びるものと解されるから、かかる観点から更に本件検問の違法性を以下検討することとする。

3  本件検問の重大明白な違法性の有無

(一)  原告らは、本件検問は秋田県が食管法一三条二項及び食管法規則七八条一項に基づく臨検検査としてなしたものであるが、被告佐々木には臨検検査権限はないから、本件検問は違法である旨主張する。そして、本件検問が臨検検査としてなされたとする証拠として、本件検問所において秋田県の職員が食管法一三条三項及び食管法規則七八条二項所定の臨検検査票を携帯していた旨の第一事件原告菅原義彦の供述書(<証拠>)及び原告ら代理人らが秋田県に対し本件検問の行われた根拠を質問したところ秋田県はすぐにその回答を出せなかった点の書証(<証拠>)を提出するか、右証拠は本件検問が臨検検査として行われたことを客観的に裏付ける証拠とは言い難く、右の証拠をもって、本件検問が臨検検査としてなされたと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

したがって、本件検問が臨検検査としてなされたことを理由として本件検問の違法性を争う原告らの右主張はその前提を欠くといわざるを得ないから、その余の点を判断するまでもなく、理由がない。

(二)  次に、原告らは、本件検問が秋田県の行政指導としてなされたとしても、秋田県には本件検問を行う組織上の権限がなく、行政指導を行い得ないのであるから、本件検問は違法である旨主張する。

米穀を含む主要食糧の管理に関する事項は、国の機関委任事務に属し、知事がこれを行使しうるためには、法律(食管法)又はこれに基づく政令による委任が必要であるところ、食管法三〇条には主要食糧の管理に関する権限については政令の定めるところによるとしているものの、弁論の全趣旨によれば、現在までに右政令は制定されておらず、知事への委任はなされていない。食管法上、知事の権限としては、米穀の卸売、小売の流通段階の管理が規定されているにすぎない(食管法八条の三第一項)。したがって、本件検問が不正規流通米の防止を目的としたもので、食管法による米穀の流通を確保するためのものであることからすると、知事への委任がなされていない以上、食管法上、それは主要食糧の管理に関する事項として、国が担当する事務と解さざるを得ない。そして、国と普通地方公共団体の事務の関係については、地治法二条二項において、普通地方公共団体の区域内の行政事務について国の事務が除外されているところである。

しかしながら、地治法二条二項は普通地方公共団体の事務として、その公共事務を規定し、同条三項には、その事務が例示されており、普通地方公共団体は、本来、その公共事務を処理することを存立の目的とするものであるから、法令による制限がある場合を除いて、当該地方公共団体の裁量において多種、多様の公共事務を処理することができるというのが相当である。

弁論の全趣旨によれば、米穀の生産は秋田県における主要産業であるところ、食管法による米穀の流通確保は県内の個々の農民の利害に留まらず、県下農民全体の利害に関わる事項であり、ひいては秋田県の農業政策にも深く関係する性質の事柄であって、これにいかに対処し、どのような施策を講ずるかはまさに秋田県固有の事務であること、前記認定のとおり、秋田県は、従来、国から食管法による米穀の流通確保のため、不正規流通米の防止を要請され、食管法の遵守が県内の農民全体の利益になるとの判断でこれに協力し施策を進めていたこと、本件検問は秋田県が単独で行ったものではなく、国(秋田食糧事務所)と共同して行われたものであって、国の米穀の管理事務を阻害するものでもないことなどが認められ、かかる事情などに照らすと、本件検問は秋田県の公共事務の範疇に含まれるというのが相当である(このことは、被告らが主張するとおり、地治法二条三項四号、一三号及び一七号の例示された普通地方公共団体の事務との関係でも根拠づけられるというのが相当である)。

そうすると、本件検問の実施が秋田県の公共事務である以上、秋田県が本件検問を行政指導として実施したことには重大明白な瑕疵はなく、原告らの右主張は理由がない。

(三)  原告らは、被告佐々木が本件検問を行う組織法上の権限があるとしても、本件検問はその態様からして強制にわたる権力的行政活動であり、非権力的行政活動である行政指導にその根拠を求めることはできず、違法である旨主張する。

原告らの右主張が、本件検問が秋田県の公務と言えない程度の態様で行われ、その瑕疵が重大明白なものであるとの内容を含むものであるとすれば、これに伴う公金の支出は違法といわざるを得ないが、本件検問がそのような態様で行われたと認めるに足りる証拠はない。すなわち、前記認定のとおり、本件検問は、秋田県警の協力を得て、長期間にわたって、大潟村に通じる道路七ケ所に検問所を設置して二四時間体制で行われ、併せて村内の巡回も行われたが、その目的は不正規流通米の防止にあって不当な目的に出るものとはいえず、大潟村において多量の不正規流通米の発生が予想され、その運搬には自動車が利用されることが予想されたこと、などの事情に照らすと、右の目的を達成するためには、本件のような態様での検問は著しく不合理なものとはいえず、本件検問の実施それ自体には、重大明白な瑕疵を認めることはできないといわざるを得ない。

原告らは、本件検問の状況について、大潟村村民が作成した陳述書(<証拠>)を証拠として提出するが、仮に、本件検問によって右の者らが被害を受けたとするならば、それは本来的には本件検問によって被害を受けた者から秋田県等に対し、国家賠償法に基づく損害賠償請求等によって解決すべき問題であって、右証拠をもって、本件検問の実施それ自体に重大明白な瑕疵を認めることはできないといわざるを得ない。

(四)  原告らは、本件検問はその態様からして、大潟村村民の社会生活上の自由を著しく抑圧し、プライバシーを侵害するものであって、憲法一三条に違反し、大潟村のみをその対象として行われた点において、憲法一四条に違反し、違法である旨主張する。

しかしながら、本件全証拠によっても、本件検問が大潟村村民のプライバシー等を侵害する態様で行われ、その瑕疵が重大明白であることを認めるに足りない。

また、本件検問が大潟村のみをその対象としたのは、前記認定のとおり、大潟村においていわゆる過剰作付が増加し、大量の不正規流通米の発生が予想されたからであって、大潟村を対象として本件検問が行われたことには合理的な理由があり、本件検問は憲法一四条の平等原則に違反するものとはいえない。

なお、原告らの右主張が、本件検問によって被害を受けた者との関係を問題としているとすれば、それは被害を受けた者から秋田県等に対する国家賠償法に基づく損害賠償請求等によって解決すべき事項であることは前記(三)と同様である。

(五)  また、原告らは、秋田県警が実施し協力した本件検問が、食管法違反の予防ないし違反者の検挙を目的とした警戒検問であれば、本件検問は警戒検問としての適法要件を満たしていないから違法であり、秋田県警と共同し、一体的に本件検問を行った秋田県にも違法があるというべきであり、仮に、警戒検問が適法であっても、警戒検問は警察の所轄事項であって、秋田県はこれを行うことはできないから、秋田県警と共同して行った秋田県の行政活動は違法である旨主張する。

しかしながら、弁論の全趣旨によれば、秋田県警の警察官による本件検問の中の交通検問は、食管法違反行為の予防ないし検挙(食管法三二条には同法三条違反の罰則が規定されている)を目的としたいわゆる警戒検問であることが認められ、前記のとおり、本件検問が秋田県警の警察官による警戒検問を利用する方法で行われたものであるが、警戒検問は秋田県警が秋田県と秋田食糧事務所からの協力要請に独自の判断でこれに応じ、警察官の職務執行として行われたものであって、秋田県の職員が自ら警戒検問を行ったものではなく、また、秋田県警の警察官と共同して行ったものでもないから、原告らの右主張はその前提を欠くといわざるを得ない。そして、秋田県及び秋田食糧事務所が不正規流通米防止のために秋田県警に協力を要請し、秋田県警が独自の判断でこれに応じてその職務を行うことは違法ではないから、原告らの右主張は理由がない。

(六)  大潟村が本件検問に協力し、村職員等を派遣したことは前記認定のとおりであるが、大潟村が本件検問を実施したとは認められないから、大潟村が本件検問を臨検検査(食管法一三条二項及び食管法規則七八条一項)として行ったことは違法であり、そのための村費支出も違法であるとする第一事件原告らの主張は、その前提を欠くから認められない。

また、本件検問は違法であるから、これに協力して本件検問のための村費の支出は違法であるとの主張は、前記のとおり、本件検問に重大明白な瑕疵が認められないからその余の点を判断するまでもなく理由がない。

(七)  原告らは、本件検問は一〇ヘクタールを超えて作付収穫した過剰米を流通の面から規制して作付制限するものであり、知事による減反政策強制の手段としてなされたものであって、違憲違法である旨主張している。

しかしながら、減反政策と本件検問のつながりが原告ら主張によっても明確でなく、前記認定のとおり、本件検問は米の不正規流通を防止する目的で行われたものであって、本件検問が減反政策を強制する手段としてなされたことを認めるに足りる証拠もないから、原告らの右主張はいずれにしても理由がない。

(八)  以上のとおり、本件検問の違法性についての原告らの主張はいずれも理由がない。

六両事件の結論

以上のとおり、大潟村による互助方式に基づく本件補助金の支出及び本件検問費用のための公金支出はいずれも違法とは認められず、また、秋田県による本件検問費用のための公金の支出も違法とは認められない。

よって、第一事件及び第二事件原告らの本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官秋山賢三 裁判官加々美博久 裁判官川本清巖)

別紙<省略>

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